季節湯とは
寒暖差が激しい季節が訪れるたびに、体調管理の大切さを改めて感じます。その一助として、日本では古くから「季節湯」の文化が親しまれています。冬至に入る「ゆず湯」、端午の節句に入る「しょうぶ湯」は有名ですが、こういった季節の植物を湯舟に浮かべてお風呂を楽しむ入浴法が、他の月にもあることをご存じですか?
実は、この入浴法は歴史が古く、平安時代に真言宗の開祖である「空海」が医療用として始めたと言われています。
季節ごとに異なる植物を湯舟に浮かべて入浴する「季節湯」は、植物の持つ香りや効能を体感し、心身ともにリラックスできる方法です。
月ごとの自然の恵みと、それがもたらす効能をご紹介します。一年を通して、毎月異なる季節湯を楽しんでみませんか?
1月:新年の「松湯」で一年の健康を祈願
1月の季節湯は「松湯」です。お正月の象徴である松には「神を待つ木」という意味があり、縁起が良いとされています。
松には殺菌作用や風邪予防の効果が期待できるため、風邪が流行る冬にピッタリです。更に保温効果にも優れているので、寒い季節に最適。何より森林の香りが、年末年始の疲れを癒してくれるでしょう。
松葉をそのままお風呂に入れてもよいですが、葉をよく洗ってから水から煮出した汁をお風呂に加えるか、精油を使用して楽しめます。
2月:意外な発見!栄養たっぷり「大根湯」
2月の季節湯は「大根湯」。捨てがちな葉の部分を使います。実は根の部分よりも栄養が豊富で、塩化物や硫化イオンなど温泉成分と同じものが含まれています。
葉を1週間ほど天日干しし、布や不織布の袋に入れてお風呂に浮かべましょう。葉付きの大根が手に入った際は是非お試しください。
3月:春の香り「よもぎ湯」でリフレッシュ
3月は「よもぎ湯」。春が旬のよもぎは、漢方の世界では「ガイヨウ」と呼ばれ、止血薬としても用いられたそうです。抗菌、消炎などの効果が期待できます。
生よもぎの葉を細かく刻んで煮だした後、煮汁をお風呂に入れる方法が正式なやり方ですが、乾燥よもぎをお茶パックなどに入れてお風呂に浮かべてもOK。
「ハーブの女王」という異名も持つよもぎ。何かとお疲れの春には、その香りでリラックスしたいですね。
4月:新年度は「さくら湯」でスタート
4月は「さくら湯」。桜の花を湯舟にちりばめて、薄ピンク色になった水面を見ながら湯につかる。なんと風情があるのでしょうか・・・と、言いたいところですが、使用するのは桜の花ではありません。桜の「樹皮」を使います。
桜の樹皮を刻んで天日干しにし、乾いたら煮だして煮汁をお風呂に入れれば完成です。消炎効果があり、打ち身や湿疹に効果が期待できます。桜の花はお好みで浮かべてもよいかもしれませんね。春の入浴を楽しんでください。
5月:端午の節句に「菖蒲湯」で邪気払い
5月は「菖蒲湯」。この菖蒲湯、なんと由来は古代中国と言われています。端午の節句である5月5日は旧暦でいうと6月中旬頃のため、中国では雨季になります。そのため災害や病気の流行が多く、厄払いの意味を込めて香りの強い菖蒲を使用したことが始まりだそうです。
日本でも、田植えの時期に身を清めるために菖蒲酒を飲む儀式があり、中国から伝来した端午の節句と合わさり、菖蒲湯に入る風習へと変化したそうです。
菖蒲湯は血行促進効果が期待できます。5月5日だけでなく気軽に菖蒲湯を試してみたいですね。
6月:夏前の肌ケアに最適!「どくだみ湯」
6月は「どくだみ湯」。厄介な雑草と思われがちですが、漢方の世界では「十薬」と言われる立派な薬草です。殺菌力、消炎効果が期待でき、夏のお肌トラブルにもってこいです。
葉や茎をお茶パックなどに入れてお風呂に浮かべるだけ。ニオイがちょっと・・・・という場合は、乾燥させたドクダミを使うとよいですよ。
7月:夏土用にぴったり「もも湯」でさっぱり
7月は「もも湯」。果肉ではなく葉を使います。煮だしたり、細かく切って布袋にいれて湯舟に浮かべてみてください。お肌トラブルに効果的だそうですよ。
「夏の土用にはもも湯に入る」というのが江戸時代からの習わしだそうです。土用といえば丑の日のうなぎしか知りませんでしたが、もも湯の風習もあるんですね。
8月:スッキリ爽快!「ハッカ湯」でクールダウン
8月は「ハッカ湯」。ミントのスーっとした香りが夏にぴったりです。血行促進効果が期待でき、冷房で冷えてしまった体のケアにも良いですよ。イライラを鎮める効果も期待できることから更年期の症状緩和にも良いそうです。
最も手軽なハッカ湯の方法は、ドラッグストアでも販売されている精油「ハッカ油」を3~5滴入れてよく混ぜるだけ。肌刺激が気になる方は、小さじ1杯程度のオリーブオイルに混ぜてから入れるとよいでしょう。勿論、精油ではなくミントの葉を直接湯舟に浮かべてもOK。
9月:「菊湯」で夏の疲れをリセット
9月は「菊湯」。菊湯に使うのは「リュウノウギク」という野菊です。茎や葉に精油成分が含まれており、香りが竜脳に似ていることから「リュウノウギク」と言われたそうです。実際はカンフェンなどが多く含まれており、樟脳に近い香りだそうです。
カンフェンは血行促進と保温効果があり、疲れた体を癒します。夏の疲れが出る9月にはまさにピッタリですね。
葉や茎を干して布袋などに入れてお風呂に入れることが一般的です。ただ、最近は生のリュウノウギクを手に入れることが難しいですので、その場合は菊茶や食用菊で代用してもよさそうです。
10月:体を芯から温める「生姜湯」
10月は「生姜湯」。生姜は9~10月が旬。生姜に含まれる「ジンゲロール」や「シネオール」などの香り成分が、血行促進や発汗、保温を助け、免疫力アップにも繋がります。冷え込み始めるこの季節に最適です。
生姜をすりおろして絞り汁を湯舟に入れても、スライスした生姜を浮かべても良し。刺激が強いので、小さなお子さんがいらっしゃる家庭やお肌が弱い方は、生姜の量を加減しながらお楽しみください。
11月:「みかん湯」でリラックスと育毛効果も
11月は「みかん湯」。みかんの皮を干したものは、漢方の世界では生薬「陳皮」として風邪薬にも使われる薬理効果の高いものとして知られています。
みかんの皮を剥いたときに香る、柑橘系特有のフレッシュな香りの正体は「リモネン」という成分です。リモネンはリラックス効果や免疫力アップ効果に加えて、なんと育毛効果が期待できると言われています!
入浴方法はみかんの皮を1週間ほど干して、布袋かお茶パックに入れて湯舟に浮かせれば完成です。干した皮の方が効果は高まるそうですが、いちいち皮を干すのは面倒!という場合は、干さずに使用しても大丈夫。敏感肌の方は量を加減しながら、お楽しみください。
12月:冬至には定番の「ゆず湯」で一年の疲れを癒す
12月は「ゆず湯」。冬至の日にゆず湯に浸かることは有名ですが、元々は江戸時代に銭湯の客寄せとして始まったことが由来だそうです。冬至と「湯治」、ゆずと「融通」をかけて、「お湯に入って融通よく」という意味が込められているとか。
ゆずの果皮にはお肌に良いとされるビタミンCが豊富。そして、ゆずの精油には「リモネン」や「αピネン」が含まれており、免疫力UP効果、リラックス効果などが期待できるため、なにかと忙しく、風邪が流行るこの季節にピッタリです。
そして何より、ゆずの香りは癒し効果抜群です。冬至に限らず、是非ゆず湯をお楽しみください。
さいごに
季節湯は、私たちの身近にある植物の効能を楽しむ日本の古き良き習慣です。旬の植物の香りと効能が、季節の変わり目に合わせた体調管理をサポートしてくれます。
地球温暖化に伴い春と秋がなくなると言われていますが、「季節湯」を通して四季の移ろいを感じてみるのはいかがでしょう。たまにはゆっくりとお風呂に浸かって、心と体を癒してくださいね。